徹夜本と映画で現実逃避!

現実逃避して、しばし嫌な事忘れましょ!

法の番人である裁判所の闇に切り込みます。神様のような人達しかいないと思っていたのですが・・・。 (裁判官も人である/岩瀬 達哉)

裁判官も人である 良心と組織の狭間で

裁判官も人である 良心と組織の狭間で

日本人であれば、学校で必ず習う三権分立。詳細は忘れちゃったけど、言葉は覚えているという人も多いと思います。

日本国憲法は国会(立法)、内閣(行政)、裁判所(司法)の3つの機関が、それぞれ独立し、相互に抑制し合い、バランスを保つことにより、権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障すると謳っています。

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衆議院HPから=

本作は、では裁判所は本当に行政から独立しているのか?という部分に鋭く切り込んだ一冊であり、大変に読み応えのあるノンフィクションでした。(今年読んだ本の中で一番良かったかも!)

全12章の構成になっており、それぞれの章で以下の通り裁判所の問題、懸案点を上げ糾弾しています。 

「第1章 視えない統制」

エリート裁判官のツイートを規制。裁判所自らが裁判官の独立及び表現の自由を妨げている!裁判官は上層部に逆らうと出世はもう望めない???違憲判決を出した裁判官のその後の処遇は? 

「第2章 原発をめぐる攻防」

原発の再稼働を禁止した裁判官はその後どうなったのか? 

「第3章 萎縮する若手たち」

育児休暇を取ろうとした男性裁判官に嫌がらせ・・・。 

「第4章 人事評価という支配」

ただでさえ評価は中央寄りで地方勤務の末端機関の人間は評価され憎い。また上司と異なる意見を述べると確実に人事上冷遇されることが明らか・・・したがって、イエスマンが多くなる。そんなことで裁判官の独立性は本当に確保できるのか? 

「第5章 権力の中枢・最高裁事務総局」

最高裁の判事は裁判経験の豊富な裁判官ではなく、司法行政部門である事務総局勤務経験者でほぼ占められている。裁判官という職業は紛れもなくエリート中のエリートであるが、その中でまた、迎合型のエリートとそうではないエリートに区分され、そうではないエリートが最高裁の判事になることは100%ない。そんな体制で果たして裁判官として業務のモチベーションを保ち、冷静な司法判断ができるのか?

 「第6章『平賀書簡問題』の衝撃」

長沼ナイキ基地訴訟で、担当裁判所の所長が、裁判長に対して、国側の主張を認めるように要請。それは裁判に対する不当な干渉であり裁判官の職権の独立を侵害するもの!と大問題に。その際に所長からの書簡がマスコミにリークされ、情報元と疑われた裁判官の処遇。また後に最高裁長官となる担当者がその際に逃げ切った策とは・・・。 

「第7章 ブルーパージが裁判所を変えた」

一部の裁判官も属していた青年法律家協会という法律家の人権活動の情報ネットワーク団体が左派的だとし、政治的色彩を帯びた団体に裁判官は加盟すべきではないという主張の下、同団体に属している裁判官をあからさまに人事上冷遇し、裁判官の再任拒否も実施。まさに裁判所の赤狩り・・・。その後、裁判所はどう変わったのか? 

「第8章 死刑を宣告した人々」

死刑宣告が裁判官に与える心理的なプレッシャーはどのようなものなのか?

「第9章 冤罪と裁判官」

何故、冤罪は起きてしまうのか・・・。その原因を「徳島ラジオ商事件」を例にとり検証。 

「第10章 裁判所に人生を奪われた人々」

第9章に続いて冤罪を取り上げる。「東住吉事件」を例に「娘殺し」の汚名を着せられてしまった母親の悲劇。 

「第11章 ねじ曲げられた裁判員制度

裁判員制度の歪み。また、本来の目的とは異なり、その導入を何故か後押しすることになった裁判所側の真の目論見とは・・・。読者はその驚愕の事実に戦慄することに・・・。 

「第12章 政府と司法の暗闘」

1票の格差の是正問題の裁判所の対応に関して。何故ここまで最高裁立法府の怠慢を庇うのか?所詮は国会と慣れ合っているのか?これらを踏まえて、最高裁憲法の番人として本当に立法府をチェックできているのか?を論じます。

 

上記で細かく現裁判所の状況を検証しながら、最後に著者は、結局、裁判所も人事権と予算査定権を立法府と行政府に握られている為、三権分立の理念を実践できてはいない、と結んでいます。

 上司や行政と意見を違えては決して出世できない、したがって給料も上がらず、定年後の職場まで冷遇される。嫌なら弁護士に転身というのも、昨今の司法改革で弁護士人口は増加、なかなか喰っていけないという背景があり、更に身動きができなくなっているというのが現代の裁判官の実状のようです。勿論、民間の会社も多かれ少なかれそういう部分はありますが、彼らは学問ではどこの世界でも一番だった、超スーパーエリートですから、民間以上に辛い世界ということは想像に難くないかと・・・。

政治家の皆さんには、なんとか優秀な人材が国民の利益の為に幅広く登用できるような方法を考えて欲しいものですね。

深く考えさせられる1冊でした。