西洋コンプレックスを撥ね退ける、恐ろしいまでのウタマロ(男根)信仰エンタメ小説!!(汚れた英雄/大藪 春彦)
と、ある本が読みたくなって、探すも既に絶版。古本市場にも殆ど無い・・・(あっても高額)で、途方に暮れていた時に、あ、そういえば図書館があるじゃん!と思って調べてみると「あった!」
図書館なんて学生以来足を踏み入れていないので、勝手が判らず、いろいろと調べてみると・・・。凄げー!
ネットで予約ができて、希望すれば、なんと通勤途中の駅にあるサービスコーナーまで、図書館から本を搬送をしてくれる神のようなサービスも!通勤前後に受領、返却ができるなんて、初めて福祉に感謝したいレベル。しかも、読みたい本が殆どある・・・。
本は、買わないと、作家さんが面白い作品を書いてくれるモチベーションがなくなっちゃう、と今まで極力購入できるものは、購入していたけど、全部ただで読めちゃう・・・(もちろん住民税は収めているけど・・・)。
これじゃ、申し訳ないけど、図書館の誘惑に負けちゃう・・・。(ごめんなさい。)
唯一の難点は、人気のある本は、皆、3か月から半年待ち。よって、予約入れておいても、受領日の調整はできず、一度にドカドカと読みたい本が来てしまう事も・・・結局、貸出期間の2週間では読みきれず、泣く泣く返却することに・・・。
で、自分が読みたかった本が何だったかというと、大藪春彦氏の「汚れた英雄」。
ネットでなんか面白いそうな本ないかなぁ、と探していて、そういえば、これ読んでないな、と思い至った次第。映画化もされていたし、朧げだけど、主題歌が大ヒットした記憶もある・・・。後で、ローズマリー・バトラーの曲と、アメリカン・ジゴロのブロンディのコールミ-を勘違いしていたことが判ったけど・・・(笑)
しかも、大藪春彦氏と高木彬光氏も恥ずかしながらごっちゃになっていました・・・。(甦る金狼と白昼の死角がごっちゃごっちゃ・・・、年は取りたくないものです。)
主人公の北野晶夫の父親は大学の教授であったものの、共産主義者のレッテルを貼られ、拷問により死亡。戦争で母親も失い孤児に。自転車屋を営む親戚の伯父に引き取られるが、そこで酷い扱いを受ける。しかし持ち前の美貌と度胸で伯父の娘や愚連隊の娘等を次々とたぶらかし、それを対抗手段に、時には相手を脅迫し、常に相手より優位に立つことを学んで行く。自身を守るために拳法道場に通いメキメキと腕を上げていたが、喧嘩により破門。やがて、伯父の自転車屋がオートバイの整備をするようになり、そこで2輪とその整備技術を覚える。その後、国立大学の工学部に安い学費で行かせ、あくまで晶夫を安く利用しようとする伯父と衝突、伯父を殴り、家を飛び出す。
高校卒業後、在日米軍の関係者であるアメリカ人の軽井沢の別荘で飼われている猟犬の世話係をしながら、英語、猟銃の扱い、4輪の運転を覚え、主人の妻と、そこの使用人である女中と深い関係に。主人のフェラーリーで米軍関係のアマチュアレースで優勝。2輪のレースチームでロングビーチにショップを構えるビアンキの目に留まり、ライダーとしてスカウトされ、将来の再会を約束する。その間に私大の理工学部に入学。資産家の子女から次々に言い寄られ、全員骨抜きに。肉体的な奴隷となった彼女達からの貢物(宝石やジャガーXK-SSなど)、また、世間体を心配した親から手切れ金を渡され、とても学生とは思えない生活を送る。言い寄ってきたうちの一人からの勧めで自家用飛行機操縦免許を取得。その後、正式にヴィアンキのライダーになる為、渡米。スタンフォード大学に入学する。
入国管理官の女性と懇ろになった直後に、大女優のエヴァ・ガーデンと知り合う。たちまち晶夫の虜になるエヴァ。そして結婚。しかしエヴァは嫉妬に狂った入国管理官の女性により殺され、晶夫はエヴァの莫大な全財産を相続することに。エヴァが所持していたビーチクラフトを操縦してロングビーチのビアンキショップからスタンフォード大学まで通学。プロぺラ機に物足りなくなり米軍の払い下げのジェット練習機を購入、ジェット機の免許も取得。
その後、イタリアの名門チームであるアグスタに移籍。21歳で世界GP350CCクラス初出場、初優勝。パーティでリヒテンシュタインの王女イラと出会い、婚約、公爵となる。同年350CCクラスの年間王者に。正式に王女イラと結婚、日本の国籍を放棄。アグスタが金がかかりすぎるとオフィシャルチームとしてレースから撤退するが、アグスタのバイクに乗るプライベートライダーとなる。浮気していたイラに離婚訴訟をされるも、逆に彼女の浮気の証拠を突きつけ、賠償金を受けとる。直ぐに今度は500CCクラスの年間王者に。暫くして、石油王の未亡人スーザンと知り合い、結婚。薬中毒になったスーザンが殺され、再度、莫大な遺産を相続する。アグスタのプライベートライダーを辞め、やはりイタリアの名門メーカーであるモリーニに移籍、レースから手を引くことになったモリーニの後は東ドイツのMZへ移籍するも日本のホンダ、ヤマハ、スズキ等の凄まじいまでの技術革新に欧州勢が追いつけず、再びレース界に復帰したアグスタに戻る。しかしアグスタでもホンダの躍進には勝てず、そろそろ自身の2輪の時代は終わりつつあると自覚し、4輪と掛け持ちするようになる。4輪界からの強い曳きで当時フェラーリと凌ぎを削っていたフォードのドライバーを兼務。デイトナ24時間耐久レースで優勝。2輪でも盛り返したアグスタの500CCクラスで度々優勝、4輪と2輪の掛け持ちを続ける。晶夫の「俺は誰にも指図されない、当然、女にも支配されない。」という人生はこの先どうなって行くのか・・・。
全部で4巻あり、それぞれ野望編、雌伏編、黄金編、完結編と名前が付けられています。(それにしても2巻の「雌伏編」って凄いネーミングですよね・・・。これは本来の雌伏なのか?漢字の通りメスを伏せさせるのどっちなのでしょうか? 笑)4巻の前半までは、ひたすら、世界的な美女と浮名を流し、金も唸るほど持ち、何をやらせても万能、殺し屋を差し向けられても逆に返り討ちにしてしまう、身長185cm、胸囲120cmにも関わらず着痩せするという、晶夫のこれでもか、これでもかというスーパー超人ぶりが楽しめるのですが、突然、4巻の後半からは、主にレースの記録、いかに日本のメーカーが欧州のバイクメーカーを技術的に追い詰めて行ったのかということを中心に(晶夫の部分だけはフィクション、後の背景はほぼノンフィクション)物語は語られます。当時、戦争に負け、まだまだ西洋人コンプレックスに凹んでいた日本人が、晶夫と云う、日本人離れしたスーパ-ヒーローに思いを託し、西洋人を意のままに、ほしいままにするのは非常に痛快だったと思います。今ではこんな小説は考えらませんが、エンタメとしても最高、当時の2輪の歴史資料としても非常に貴重なものだと思います。
今は電子書籍の時代なので、こういった本は簡単に復刻できると思うのですが、当時は差別とされていなかったけれど、今では立派な差別表現となっている言語が結構入っていることや、超の付く男性目線、また、名前は微妙に変えていますが実際に存在する女性などがフィクションとして、好き勝手に書かれているので(例えば今は芸能界で売れっ子の〇ビ夫人?)、内容的にとても復刻盤は出せないだろうなぁ、と納得しました。(笑)
また最後に晶夫がフォードのレーサーになる下りがありますが、それはまさに、先日公開された『フォードvsフェラーリ』の背景と見事なまでに重なるので、是非この小説の内容を踏まえて見てみたいと思いました。
尚、ちなみに映画化された「汚れた英雄」ですが、これはこれで、バイクのカッコよさが際立つ、草刈正雄さんによる、草刈正雄さんの為の映画となっています。しかしながら、原作には足元の「あ」の字も及ばない作品になっていますので、期待は禁物です・・・。大体あの世界感は絶対映画では描けません・・・。